研究概要

  光無くして生命はありえません。我々の周りにあふれる様々な波長の光は、全ての生命の根元的エネルギー源あるいは環境を認識するシグナルとして生物に有用であると同時に、波長が短く高エネルギーの光は生体物質に損傷をもたらします。 当研究室では、これら様々な波長の光の生体影響・生体応答を解析し、生物が如何に巧みに地球環境に適応しているのかを明らかにしようとしています。 DNA損傷の修復・突然変異生成から生物時計の制御と幅広い生物現象を扱いますが、光と物質の相互作用として共通の分子基盤を明らかにしたいと考えています。

  光と生命の関係を以下の二つの面から研究しています。一つは、波長が短くエネルギーの強い光である放射線や紫外線の生物作用であり、それらによるDNA損傷と その修復機構、および突然変異生成のメカニズムを解析する研究です。二つ目は、光を外部環境シグナルとしてとりあげ、紫外線から可視光を含む光に対する生体応答を、 光受容体を中心に行う研究です。前者では、電離放射線に特徴的なDNA損傷として二重鎖切断を、また紫外線によるものとしてピリミジン二量体をとりあげています。 これらは損傷に特異的な修復機構により修復されますが、修復されずに残った損傷は特別なDNAポリメラーゼにより複製され突然変異を引き起こします。 損傷修復と突然変異生成は微妙なバランスの上に制御されているわけです。両者の制御メカニズムを明らかにする研究を、体組織でのモザイク作成により行っています。 後者としては、 体内時計における光受容タンパク質のシグナル伝達機構を明らかにする研究を行っています。光受容タンパク質は、ある種のDNA修復酵素と近縁である事が知られており、 DNA修復と概日リズムといった全く異なる生命現象の制御に、共通に存在する分子基盤を明らかにできることが期待されます。この様な研究は、ショウジョウバエ、 メダカ、マウス等、分子遺伝学的解析が可能なモデル生物を用い行っており、タンパク質の構造解析など分子レベルで明らかにしたことを、更に、変異個体 (ノックアウト個体や変異原誘発変異個体)及びトランスジェニック個体等を駆使し、個体レベルにおける表現型として理解することを目指しています。
  分子から個体までをトータルに捉え「生物」を理解する、「光と物質の相互作用」をとおして生命を理解する、この2つが当研究室の基本戦略です。


プロジェクト1:光回復酵素・クリプトクロームファミリーの解析

光回復酵素は可視光(青色光)を利用して紫外線誘発DNA損傷を修復する酵素である。いっぽうクリプトクロームは多様な生物機構をもっており、青色光受容体として植物の光形態形成や昆虫の概日リズム制御を行うと同時に、高等動物では転写制御因子として生物時計の重要コンポーネントとして概日リズム形成を行っている。本教室では、光回復酵素とクリプトクロームが、一次構造の共通性みでなく高次構造の高い類似性を示す多機能タンパクファミリーを形成している事を見いだした。地球上での生物進化において、生物は太陽紫外線への対抗手段として光回復酵素を生み出し、更にその遺伝子を重複させた後、オゾン層形成により太陽紫外線の脅威減少に伴いクリプトクロームへ機能分化したと考えられる。いずれのタンパク質群も補酵素としてFlavin Adenine Dinucleotide (FAD)を持っており、クリプトクロームでのFADの役割についての解析を行っている。


プロジェクト2:メダカ遺伝子変異体作製

個体・体組織レベルでの遺伝子機能解析を目指し、 メダカにおいて遺伝子変異体作成を行っている。2000年代当初,個体レベルでの遺伝子変異体作製(Gene Targeting)はマウス、酵母等ごく限られたモデル生物のみにおいて可能であった。ごく一般的なGeneticsが可能なモデル生物の適用できるGeneralなGene Targeting法としてTILLING (Targeted Induced Local Lesion in Genome)が考案され,当研究室においてもメダカにおいて本法を確立した。TILLING法は、化学変異原でmutagenizeされた個体由来のF1個体のゲノムDNAと凍結精子からなる変異体ライブラリーを作製し、目的遺伝子エキソンに導入されている突然変異スクリーニングにより変異個体を同定するという方法である。約6000個体からなるライブラリーを作成し、Temperature Gradient Caapilary Electrophoresis (TGCE)法、High Resolution Melting Curve Analysis (HRM)法,Next Generation Sequencer (NGS)法によるスクリーニング方法を確立し、多くの遺伝子変異体作製を行った。その後、ゲノム編集技術が考案され、TALEN, CRISPRによる変異個体作製を行っている。



プロジェクト3:メダカ遺伝子変異体の表現型解析

作製した変異体の表現型を、寿命,自然発がん、放射線、紫外線、化学変異原に対する感受性及び誘発ガンについて解析するとともに、変異個体から樹立した培養細胞を用いた分子レベルでの解析を行っている。メダカアの特徴を活かし、分子から、細胞?個体レベルの解析系を確立している。


プロジェクト4:メダカ遺伝子変異体のゲノム解析

次世代シークエンサー(NGS)を用い、自然変異及び放射線、紫外線、化学変異原誘発変異の解析を行い、プロジェクト3で確立している発がん系のゲノムレベルでの解析を行っている。